不安をケアする

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サメ たぬきから聞きましたけど、長田さんって、日々、あんまり不安にならないらしいですね。

(→たぬきと長田さんの会話はこちら

長田 そこまでバカじゃないですよ、ハハハ。ま、不安にならないというか……、 “不安という状況” を待ってますよね、どーせ来ますから。だからか、 “不安定” なものが好きですね。
 

長田 不安定になれば、ちょっとワクワクするんですよね。ちょっとやばいな、これをどう対処していこうかってところが、腕の見せどころじゃないですか。だってそれって、完全にその人の “個人” が出る絶好のチャンスなんですよ。人間関係上、不安定な状況になれば、「来た来た!」 って歓迎します。そういう癖は、無いよりはあったほうが良いと思うんですよ。

サメ そうですか? 私は、不安定なのはあんまり好きじゃないですけど。

長田 でも世の中、そういう不安定な人を安心させるためのビジネスがいっぱい存在するでしょ。もう、それは詐欺みたいなものですよ。自己啓発とか、これをすると体に良いとかね。ほとんどが余計なお世話なんですよ、 “不安定” にとってみるとね。

サメ たとえば、どんなものです?

長田 ま、いろいろあるじゃないですか。
 「○○をすれば話がうまくなる」とか
 「できる人の習慣ベスト10」とか
 「結果を出すメンタルトレーニング」とか
 「○○歳までに身につけたい教養」とか
 「集中力を高める食べ物は○○」とか
 「毎日これをすれば、お腹がへこむ」とか
 「長生きのために○○しなさい」とか
 「1日○○リットル水を飲め」とか。

サメ ああ、いっぱいありますね。

長田 しかも「これには医学的根拠がある」って台詞、よく聞くじゃないですか。でもその「医学」っていうのは、統計のなかでの話でしょう? 「多くの人体にとって」って話ではあるかもしれないけど、「個々人にとって」って話は完全に排除されてる。「水を飲め」って言われても、あんまり必要ない人もいるだろうし。
 でもその情報を氾濫させることを、みんな良いことと思ってやってる。それが怖いんですよ。

サメ 善意をもって「こうすると良いから、みんなでやりましょう!」って言いますからね。

長田 みんな、不安ってものを、一刻も早く払拭しなければならない癖がついているのかな。でもそういう癖は、僕にとっては意味がわからないです。



「晴れてないことだけは 確かだ」

サメ 人生に不安な人が、長田さんに相談しに来ても、相手にされなそうですね。「僕、どうしたらいいでしょう?」とか聞いても、「知らないよ」って言われそう。

長田 だって、一人ひとり、自分の領域で生きていくしかないですから。
 人生とか生活とかで、自分がどういうものを組み立てていくのかを、完全に人に委ねちゃったり、自分にとって何が良い/悪いのかを、事細かく他の人に聞いたりするのって、ゆゆしき事態なはずなんですよ。

サメ 自分にとって何が良いのか、悪いのか。自分は何が好きなのか……。

長田 そう。何が好きなのか、何がやばいのか。何に怒って、何に耐えるべきなのか、自分の意志で、自分の責任でやっていかないと、話にならないんですよ。
 そのうえで、それぞれの個人が「私はこういう趣味」、「僕はこういう趣味」っていうものをずっと続けていくしかないですよ。

サメ みんなで同じ方向を向いているおっとせいの時代から、まだ世の中は変わってないんでしょうね。……まあ私も含めてね。