イモリ:文章を先に作って、その後に絵を描くことって、まったくないのですか? 長編作品であっても?
長田:まずないですね。文字数の多い『まろやかな炎』とかでも文章は後ですよ。やっぱりイメージを膨らませたり、展開させていく作業が元々好きで、どうなっていくか分からない感じにワクワクするんですよね。「この作業を続けていったら僕はどうなっちゃうんだろう」みたいなね。主語が「僕」ですけど、その作品や登場人物がどうなっちゃうんだろうってことでもありますね。そのスリルと即興がおもしろいんです。
イモリ:今年の上旬に出版された『ピラニアくん』みたいな絵本でも、お話が具体的にない状態で描き始めちゃうのですか?
長田:そうです。絵が最初。あの韻を踏んだ文体とかも、後からできました。絵を描きながら世界観を広げるのが作業としておもしろいんです。
あと、文章が絵にマッチしていないことも時々あるけど、そのミスマッチのおもしろさも楽しんでますね。
イモリ:絵の下書きなどはしないのですか?
長田:基本的にないですね。構図とかもアドリブです。たまにアタリをちょこっと入れますけど、アタリがないほうが、絵に勢いがある。やっぱり下書きなしに筆で描くのって、原稿に直結している感じでスリルがあるんです。
つまり野球でいうと、プラクティスなし、いきなりバッターボックスに立つような感じです。それが僕のやり方としての楽しみの一つでもあるんですよ。
イモリ:へー。ちなみに登場人物(キャラクター)はどうやって生み出しますか?
長田:キャラクターの造形とかは、絵と同時にいろいろやってるんでしょうね。だいたいは勝手に生まれてきます、あんまり考えなくとも。さらに、描いていく中で「このキャラクターはこういうこと言うよな」って見えてくるものがあって、そこから次の展開が生まれたりもします。もう本当に、全部即興です。
なんかこう綿密にね、下書きをしっかりしたり、意図的に組み立てていくような作業が辛くって。描きながら自分の中を探り当てている感じだから、最初にどのページを描いたかなんてことも覚えてないですね。1ページ目から描いてるわけではないんです。
で、複数の作品を同時にやってるでしょう? 覚えられるわけがない。後々の作業段階でページを入れ替えることもあるし、新しい絵を描いたり、逆にページを減らしたりもします。
イモリ:即興で絵本を作っていく場合、日常生活のどんなタイミングで描き始めるのですか?
長田:なかなか伝えにくい感覚ですけど、「あ、アイディアが浮かんだぞ」って突然描き始めるわけでもないんですよ。普段生活をしていて、外出したり掃除したりして、そのうち机に着いたら絵を描き始める。それで作品ができあがっていくんです。出版社の人が僕をひたすらおだて続けたら描けるというわけでもなくてね。
あくまで日常の一部として作品作りがあるんです。創作する、仕事する、という感じよりもっとフラットに取り組んでいますね、絵本づくりは。
だから作品に深入りすることはないですね。ちょっとダークでシリアスなものを手掛けている時でも、僕自身は暗くなりませんね。そういう作品を描いている瞬間もやっぱり楽しいですよ。
イモリ:そうなんですか。うーん、そういうことって私には難しそうだな。でもお話を伺えて良かったです。ありがとうございました。
長田:絵本づくりがお仕事! になってしまったら、続かない気がしますね、性格的に。
ま、どう考えても仕事なんですけどね。……何言ってんだろ。